AIが実現する細胞検査の効率化、重病予防への新たな突破口

AIが実現する細胞検査の効率化、重病予防への新たな突破口

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KEPPLE編集部

人体を構成する細胞の数について、2013年11月に発表されたイタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニらの論文によると、37兆個であるという推定がなされた。私たちの体はそれだけ多くの細胞によってできているということだ。

細胞にはまだ解明されていない構造や機能も多い中、顕微鏡検査へのAI活用で革新的な細胞検査の開発に挑むのが株式会社CYBOである。同社は6月、シリーズAラウンドにて、ジャフコおよびインキュベイトファンドを引受先とした第三者割当増資による約4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

デジタル化とAI技術による細胞検査

顕微鏡検査はがん検診や病理診断などで幅広く活用されているものの、病理医や検査士の経験や知識に依存しており、効率化や精度の安定化が課題となっている。CYBOはこの課題を解決するために、検体画像を高速かつ高品質でデジタル化する技術、および画像を解析するAI技術を統合したプラットフォーム製品「SHIGI」の開発を進めてきた。

現在は、子宮頸がん検診支援AIソリューションや血栓症早期発見ソリューションなどの開発に取り組んでいる。今後は調達資金により、SHIGIをベースとしたAI医療機器の開発および事業化を推進し、2024年度中の販売開始を目指す。

代表取締役 新田 尚氏に、同社の技術開発の背景や今後の展望について詳しく話を伺った。

細胞を3Dで捉えることによる検査の効率化

―― 御社の技術について教えてください。

新田氏:細胞というのは人間の体を構成する最小基本単位です。細胞を知ると、体のことがわかるので医療に貢献できます。また、医療に限らず細胞によって構成されているもの、たとえば食品などいろいろな産業に役立ちます。私たちはこの細胞解析を極めるための技術を開発しています。

特に注力しているのが、顕微鏡検査における細胞の解析技術です。医療現場では顕微鏡を使って細胞を観察し検査を行うことが多いのですが、顕微鏡観察をデジタル化し、さらにAIを活用して検査を効率化するソリューションの開発に取り組んでいます。

当社の基盤技術である断層画像の高速スキャンによって、細胞の高精細3D画像を大量に取得できます。本来、そのような画像をたくさん読み取ると、データ容量がとても大きく保存に時間がかかってしまいますが、高画質のまま高速で保存するための特許技術も持っています。さらに、それらの3D画像をAIで解析し、病理医や検査士にとって分かりやすく提示する技術も開発しています。

CYBOの技術

従来は主に二次元(2D)の画像による解析がなされていましたが、細胞は実際には立体なので、細胞画像を3Dで取得することで、細胞塊の内部もクリアに確認して、より詳しい検査結果を得ることができます。また、目視で行っていた観察作業をAIが代替することで、人間は重要なポイントに集中して確認することができるようになり、検査業務を効率化できます。

―― 従来の細胞検査における課題について教えてください。

日本の細胞検査は世界的に見ても非常にクオリティが高いです。病理医や細胞検査士の方々は、長年かけて養成されており、質の高い検査が実施できます。しかし、人材は圧倒的に不足しており、例えば病理医は日本に病院が8000施設ある中、2600人程度しかいません。

病理医は病理検査を行っています。たとえば外科の医師ががん細胞を切除したとき、その細胞の中にどのように、どんな種類のがん細胞がいたのかを調べます。病理医は普段、患者と関わる医師ではないのであまり馴染みがないと思いますが、病気の特性を明らかにし、その後のケアをどうするべきかなどの意思決定に関わる重要な役割を担っています。

しかし、人手が足りていませんので、一人ひとりにかかる負担は大きく、人為的な検査精度のバラつきが出てしまっています。現場によっては、一日に100人分の検体を観察し続けることもあり、見落としの不安を抱えている方も実際にはいらっしゃいます。そこで私たちはこれらの課題をデジタル化とAIで解決しようと考えました。

細胞検査の課題

早期発見すべき疾患を明らかにするためのソリューション

―― 現在特に注力されているソリューション開発について教えてください。

一つは子宮頸がん検診です。日本でも年間1000万件以上行われており、定期的な検査でがんの予防効果があるということは、これまでの調査でも明らかになっています。しかし大変なのは、採取した細胞一つひとつを医師や検査士が目視で見ていくということです。

そして、その受診率の低さも問題視されています。米国の受診率は85%程度ですが、日本では40%を下回っている状況です。そこで質の高さを維持したまま、より効率的な検査を行えるようにすることで、現場の負担軽減と受診率向上に貢献していきます。

二つ目はデジタルパソロジーの普及です。病理医が行う病理検査をデジタル化・AI解析できるようにすることで、全国の病院8000施設で実現できるような環境をつくりたいと考えています。

また、脳梗塞や心筋梗塞といった血栓症のための検査ソリューションにも注力していきます。これらの疾患は、リスクの高い方々に対して生活習慣や食事の見直しなどのアドバイスに留まるケースが多く、実際に発症して倒れるまでの間の適切な対応ができていないように感じています。

そこで、血小板の活性化を測る新技術で心筋梗塞や脳梗塞の予防を実現するためのソリューション開発を東京大学附属病院との共同研究により進めています。

代表取締役 新田 尚氏


―― 技術開発の背景について教えてください。

さかのぼると、共同創業者で取締役である東京大学の合田 圭介教授が、内閣府の革新的研究開発推進(ImPACT)プログラムでプログラムマネージャーを務め、新しい細胞解析技術の開発を進めることになったのが最初のきっかけです。

当時ソニーにいた私と、ニコンにいた現・開発部長の杉村がこの開発に携わることになりました。そして、超高速イメージング技術を開発し、AI技術と組み合わせて、撮影した細胞の画像をもとに、必要な細胞を物理的に分取するというデバイスを作りました。2018年に完成し論文発表したところ非常に注目を集め、事業化に向けて合田教授と私と杉村でCYBOを立ち上げました。

すると、このたび当社のプロダクトマネージャーに就任した杉山 裕子先生から、この技術を使って病理医や検査士を助けてほしいと強い要望をいただきました。現場の苦労を知り、より人の役に立つ技術だと考え、開発に着手しました。

―― SHIGIの開発を実現できたポイントについてどのようにお考えですか?

当初想定していた以上に、開発を進めることには苦労しました。2021年にSHIGIのバージョン1を作成したものの、その画像では医師や検査士の皆様に納得頂くことはできませんでした。プロの皆様が自信を持って判断できる画像の見え方や特徴の捉え方を実現するために、足繫く病院に通って先生方と膝を突き合わせ顕微鏡をのぞきながらすり合わせを重ねました。

医療現場とエンジニアの世界では使われる言語が違うので、専門用語を学習していくのも大変でしたが、医師や検査士のみなさんに根気よくお付き合いいただき、フィードバックを反映しながら改良を続け、バージョン3が完成した現在、やっと臨床の現場に受け入れられる製品ができたと考えています。

完成したSHIGI最新版の試作機

医療現場の負担を軽減し、質の高い検査を提供

―― 御社の技術が社会にもたらすメリットについて教えてください。

受診者のメリットとしては、やはり見落としや偽陽性がなく、正しい検査結果を得られるようになることです。それが受診しやすい価格で広く行き渡れば、さまざまな医療機関で採用され、質の高い検査をどこでも受けられるようになっていきます。

また、医療機関では検査の効率化により、病理医や検査士の負担を軽減し、より働きやすい環境をつくれるようになると考えています。さらに、日本の丁寧な検査を海外にも提供していければ、喜んでいただける国は多いはずです。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

まずはSHIGIを医療現場で活用いただき浸透させるため、短期的にはこれからの2年間で、医療機器としてしっかりと販売して売上を立てていくことに注力します。細胞検査を行う検査会社や大病院はもちろんのこと、人材不足の課題を抱える中小の病院にこそ使ってもらえるようなものにしていきたいと考えています。

長期的には、あらゆる顕微鏡検査をデジタル化して、AI活用するためのプラットフォームを構築していきます。検査に携わる方々の業務を効率化し、質の高い検査をいつでもどこでも受けられるようになる環境づくりに貢献していきます。

株式会社CYBO

株式会社CYBOは、AI医療機器理化学機器・診断機器およびソフトウェアの開発を行う企業。基盤技術である高速イメージング、リアルタイムAI、および高速メカ制御を駆使した技術開発を得意としており、細胞画像をAIで解析して目的細胞を分取する画像活性セルソーター(ENMA)や、病理医や細胞検査士の業務を支援するAI医療機器(SHIGI)の開発を行う。顕微鏡検査へのAI活用で、がんや血栓症などの病気の早期発見や治療の精密化を目指している。

代表者名新田尚
設立日2018年7月17日
住所東京都江東区青海2丁目4番10号産業技術研究センター製品開発支援ラボ301
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