新素材で感染症対策、FiberCrazeが織りなす繊維産業の新時代

新素材で感染症対策、FiberCrazeが織りなす繊維産業の新時代

DeepTech Trend

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KEPPLE編集部

日本の繊維産業再興に向けた新たな一手とは。

明治から昭和にかけて、繊維産業は日本経済を牽引する主力輸出産業の一つであった。しかし、経済産業省によると、日本の繊維産業はバブル崩壊後に急速に衰退していき、現在その輸出額はピーク時の4分の1まで落ち込んでいるという※1。その理由としては、事業所数、従業者数の減少や円高の影響による国際競争力の低下などさまざまな要因が挙げられている。

このような状況を打破すべく、経済産業省は2030年に向けた繊維産業政策として、新たなビジネスモデルの創造や、技術開発による市場創出、サステナビリティの推進などを掲げている※2。日本各地で生産されている高機能・高品質な繊維製品を、今後より一層海外市場に普及させていく考えだ。

実際に、国内においても環境に配慮した原料などを用いた新素材を生み出すスタートアップが続々と登場している。多孔化技術を利用して高機能性素材の開発をするFiberCrazeもその一つだ。

ナノテクノロジーによる高機能素材の開発


FiberCrazeは、繊維・フィルム素材の多孔化技術をコア技術とし、高機能性素材の開発を行う岐阜大学発のスタートアップだ。岐阜大学特許技術に基づく同社の技術は、繊維やフィルム素材に後加工で数十ナノメートルの微細な穴を開け、その穴にさまざまな成分を閉じ込めることで機能性を向上させる。成分の保持や粒子の透過・制御、水・油の分離なども可能になる。

開発された素材には、防虫や保湿成分を閉じ込めた高機能性繊維や、液体吸着剤、分離膜などが含まれる。この技術により、蚊などの媒介虫による感染病予防素材をはじめ、医療・バイオ分野、産業分野などへの幅広い展開が期待される。

FiberCrazeのコア技術

画像:FiberCraze提供

繊維などに成分を付与する際、これまではマイクロカプセル加工が多く使われていた。マイクロカプセル加工とは、微小な粒子または液滴をコーティングし、さまざまな機能を持つ微細なカプセルに加工し、直接繊維などに付着させて機能素材にする技術のことだ。柔軟剤や洗剤、保温素材などに広く活用されてきた。

一方で、コーティング材にはポリマー(高分子材料)が利用されており、海や川に流れることで海洋の環境問題につながるという懸念があるため、世界的にこの加工を禁止する動きが広がっている。同社のコア技術は、こうした課題解決にも貢献が見込まれる。

同社は現在、繊維産業を中心とした多くの製造業者が事業を行う岐阜県を拠点とし、地元企業と積極的に連携し共同開発に取り組んでいる。

今回の資金調達に際して、代表取締役 長曽我部 竣也氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

あらゆる成分を素材の中に閉じ込める新技術

―― 御社の開発技術の特徴について教えてください。

長曽我部氏:当社の開発技術は、繊維やフィルムの既存素材に微細な穴を開け、成分を閉じ込めることを特徴としています。岐阜大学で20年以上前から研究されていた特許技術を基に、さらに発展させています。繊維にはさまざまな機能を付与することが可能で、その種類も豊富です。さらに、持続性や効果性が高く、再利用性も備えていることが強みです。

FiberCrazeの競合優位性

画像:FiberCraze提供

―― 岐阜大学の研究技術を事業化するにあたって、どのようなことがプラスに働いたのでしょうか?

ここまで事業を進展することができた理由の一つに、岐阜を中心とした東海地域の企業との積極的なコラボレーションを実施してきたことが挙げられます。

現在、私たちは素材の生産を受託し、地元企業との共同開発に取り組んでいます。岐阜県を拠点に選んだ理由についても、この地域には繊維産業を中心とした多くの製造業者が存在し、歴史あるメーカーも集まっているからです。

さらに、国内外のさまざまな業界のパートナーとも連携しています。これにより、他業界の知識を取り入れることができ、それぞれの課題やニーズを把握し、解決に向けた取り組みを進めることができました。

連携する企業の高度な技術力と私たちの新たな技術が融合することで、新素材の量産に向けて急速にビジネスが進展しています。

世界の感染症対策へ貢献する素材へ


―― この4月にはマレーシアのマラヤ大学との共同研究の契約締結も発表されていますね。

私の起業の動機は、感染症という世界の社会課題の解決への思いです。特に東南アジアでは、気候変動や都市化によりデング熱やマラリアなどの感染症が深刻化しています。気候変動により蚊が生息しやすい環境が拡大し、これらの病気の広がりが懸念されているのです。

マラヤ大学の感染症研究センター(TIDREC)は、著名な感染症の研究機関であり、最先端技術と豊富なデータを持っています。当社独自の先端素材「Craze-tex」を利用して、デング熱やマラリアなどの感染症予防を目的とする防虫成分を閉じ込めた高機能性素材の開発を、TIDRECとともに進めています。蚊による感染症が大きな社会問題となっているマレーシアで実証実験を行うことにより、現地の感染症対策に貢献することを目指しています。

FiberCrazeとマラヤ大学 TIDRECとの契約締結時

マラヤ大学 TIDRECとの契約締結時(画像:FiberCraze提供)

―― 国内外で競合となり得る技術はありますか?

同様の技術は存在しませんが、類似の技術はすでに存在します。特定の成分を素材の表面に付着させてコーティング加工する技術は、大手メーカーなどでも利用され、一般的にも広く機能素材として活用されています。加工の工程はシンプルですが、効果の持続性においては、当社の開発素材のほうが高く、洗濯耐性にも優れています。

代表取締役 長曽我部 竣也氏

代表取締役 長曽我部 竣也氏

技術革新で社会課題解決に挑戦する

―― 御社の開発素材が普及すると、どのようなメリットがありますか?

デング熱やマラリアの罹患者数は非常に多く、世界全体で年間64万人以上が蚊による感染症で亡くなっています。しかし、私たちの開発する防虫機能を持った素材が普及すれば、これらの被害を軽減することに貢献できると考えています。また、国内においても、皮膚科領域へのアプローチや介護業界での匂いに関する課題に対して、私たちの素材により解決できると思っています。

さらに、一般的に普及すれば、アウトドアや家庭菜園などの生活シーンでも有効活用されるはずです。新素材を通じて、社会課題の解決と生活の向上を促進していきたいです。

さまざまな分野に活用が期待されるFiberCrazeの技術

さまざまな分野に活用が期待されるFiberCrazeの技術(画像:FiberCraze提供)

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

私たちのビジョンは、ナノテクノロジーを活用して、「ミクロな技術で人類と地球の未来を織りなす」ことです。目に見えない次元の技術を操ることで、現実世界を変革していきます。

また、社会課題解決や環境問題にも貢献するため、製品の量産化によってコストを下げ、しっかりと売上を確保したいと考えています。その上で、認知拡大を進め、世界中の人々に私たちの技術が届けられればと思います。

私たちの事業は、多くの企業とのコラボレーションによって成り立っています。さまざまな業界で、課題解決の可能性が充分にあると自負していますので、私たちのビジョンやミッションに共感し、一緒に課題解決に取り組んでいただける企業や投資家の方々には、ぜひお声がけいただければ幸いです。

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※1 経済産業省「我が国繊維産業の現状
※2 経済産業省「2030年に向けた繊維産業の展望


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  • #繊維
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