未病検知から健康維持へ、aiwellが切り拓くタンパク質解析の可能性

未病検知から健康維持へ、aiwellが切り拓くタンパク質解析の可能性

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DeepTech Trend

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KEPPLE編集部


タンパク質解析の進化が新たな局面を迎えている。

人間に限らず全ての生物は細胞が集まってできており、その細胞はさまざまな成分から成る。その中でもタンパク質は水に次いで多い成分であり、細胞の活動を推し進め、調節するという重要な役割を担っている。

2003年にヒトゲノムの解読完了というニュースが世界的に注目を集めたが、これによって遺伝子が生体の設計図であるということが明らかになった。この設計図を基に生体を作る素材として働くのがタンパク質である。そして、タンパク質の変化が生体に変化をもたらすため、特定のタンパク質を調べることで疾患の有無や治療の効果などを明らかにするのが「バイオマーカー」という指標だ。

バイオマーカーの探索により、タンパク質の異常が明らかになり、それに対応する薬の開発も可能となる。病気や不調の原因となるタンパク質に薬成分が作用し、その変異を修復する役割を果たす。例えば、頭痛薬として使われるロキソニンは、ロキソプロフェンという成分が頭痛の原因となるタンパク質に働きかけ、鎮痛作用をもたらす。バイオマーカーは非常に身近であり、重要な情報源なのだ。

一方で、バイオマーカー探索は長年に渡り研究が行われてきたが、さまざまな課題もあり、その難しさについて研究者の間では知られていた。そのような状況の中、新たなタンパク質解析サービスの社会実装を進めているのがaiwell株式会社だ。

バイオマーカー探索に革新をもたらす特許技術

東京工業大学発のスタートアップである同社は、タンパク質の網羅的解析技術であるプロテオミクスを用いた、タンパク質バイオマーカー迅速探索サービス「ai-PoP(アイポップ)」を開発している。プロテオミクスとは、生物の細胞や組織、生体液中に含まれるタンパク質の構造や機能などを総合的に解析する技術である。

ai-PoPに採用されている解析技術が、従来のプロテオミクスの中心的な手法である二次元電気泳動にAI技術を掛け合わせた「AIプロテオミクス」だ。東京工業大学 生命理工学院教授である林 宣宏氏が発明した、生体の状態をプロファイルする新たな特許技術である。血中タンパク質の解析画像をAIが学習して判別することにより、病気やけがになる前の状態を発見する技術として注目されている。

aiwell ai-PoP
同社は、この技術を基に、医療現場や製薬会社などに各疾病へのバイオマーカーの調査結果を提供し、2019年から4年間で約1.5億円の売上を達成している。

また同社は、2022年12月から、米国の大手製薬会社と共同研究を開始。国内大手製薬会社とも連携し、うつ病やがんの早期発見などに取り組んでいる。国の指定研究にも採用され、感染症の早期診断法や更年期障害の治療法の開発にも着手している。

さらに、医療・創薬事業のみならず、十勝地域を中心に、ai-PoPを活用して農業、酪農、畜産、水産業、食品などの品質管理・生産性向上や、競走馬の健康管理のサポートも目指している。

代表取締役 馬渕 浩幸氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

仮説を必要とせず疾患を早期発見

―― 従来のバイオマーカー探索の問題点について教えてください。

馬渕氏:従来のバイオマーカー探索は、勘を頼りにして手探りで行われてきました。過去の病気や症例と照らし合わせ仮説を立て、その際に使用されたタンパク質の情報を基に探索するというアナログな方法です。数多くのタンパク質の中から、病気の原因となる特定のタンパク質を見つける作業は、非常に時間がかかります。さらに、タンパク質は2万種類以上も存在し、その形も変化していくという特性から、探索作業はとても手間のかかる状況でした。

また、解析するための機器がいろいろと開発されていますが、1台数十億円するものもありどれも非常に高額です。これらの機器には高い専門性が求められ、取り扱いが極めて難しく、操作を習得するにも時間がかかるという課題がありました。

バイオマーカー探索のフロート問題点
―― 御社の技術の強みや特徴について教えてください。

東京工業大学の生物物理学、分子生物学の専門家である林 宣宏教授は、プロテオミクスに着目し、マイクロレベルのタンパク質の集合体を高解像度で視覚化するための鮮明な画像を生成する技術を開発しました。

当社では、極少量のタンパク質を8センチ四方のゲルに展開し、健康状態を把握するプロテオミクスという技術を採用しています。これにAIの眼を掛け合わせて開発したバイオマーカー探索サービスai-PoPで、タンパク質の調査を安価で簡単に早く行うことができます。

ai-PoPは、仮説を必要とせずにタンパク質を特定できることが特徴です。状態ごとの血液などの検体から、タンパク質を画像化する手法を使い、それを健常者と症状のある人で比較することで、AIは自動的に差分となるタンパク質を検出します。検出されたタンパク質の差分は、病気の原因の候補となり、そのデータを製薬会社などに提供しています。従来は数年ほどかかっていたマーカー候補タンパク質の特定も、わずか数か月にまで短縮することが可能となりました。

すでにアトピー性皮膚炎の発症機構の解明、希少がん、うつ病、認知症の精神疾患などの早期発見、ダイエットやリハビリテーションなどの効果効能の検証、さらには動物や畜産業でもこの技術を応用しています。

医療分野から獣医・畜産業まで幅広く支援

―― 創業の背景についてお聞かせください。

私は最初に起業した会社で、スポーツ選手の健康状態をクラウド上で管理するアプリの開発を行っていました。トップアスリート向けに、食生活や体重などの情報を写真で記録し、それを関係者や医師、栄養士などと共有するコンテンツです。ロンドン、リオ五輪などに出場する日本代表選手にもコンディショニング管理ツールとして採用されました。

当時、林教授がプロテオミクス技術を活用してアスリートの健康状態を把握し、コンディショニング管理を行うことに取り組もうとされていたことから、林教授と出会いました。そして林教授の開発したAIプロテオミクス技術を世に広めたいと考え、東工大と共同で2018年にaiwellを設立しました。

―― これまでどのように事業化を進めてこられましたか?

2020年頃までは、林教授の理論や技術が実際にどれだけ有用かを示すため、さまざまな状況で実証研究を行ってきました。その過程で、当社の技術が幅広い市場で利用可能であるという実績を積み重ねてきました。プロテオミクス技術は生物学に関わる研究者にとっては一般的によく知られた技術であるため、その有用性は迅速に証明され、お客様からさまざまなご要望をいただき、事業化は順調に進展してきました。

―― 国内や海外で競合となり得る技術はありますか?それに対する御社プロダクトの優位性について教えてください。

競合となる企業はいくつか存在しますが、当社のタンパク質解析画像は非常に高い鮮明度を誇ります。その鮮明度がAIの有効活用につながり、より強固な優位性となっています。加えて、独自のノウハウにより、大きなタンパク質によって隠れがちな小さなタンパク質を見逃すことなく、微細なレベルで確認することが可能で、当社技術の最大の強みとなっています。こういった技術で生体の状態を把握する方法論に関する特許も取得しており、円滑なビジネス展開が期待できます。

―― 獣医・畜産研究支援も手掛けられていますが、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

人と同じように家畜やペットの病気などの判別を支援を目指しています。定期的な検査で豚コレラや乳房炎、胃潰瘍などを早期に発見し、伝染病の予防を行おうと開発を進めています。また、食用家畜の効果的な繁殖やクオリティコントロール、地域生産の正確な表示、生産性向上などを目指しサポートしています。農作物や畜産物の原材料を最適化できるよう、さまざまな分野で当社の技術を活かして提案をしています。

昨年末には、十勝のベンチャー企業に支援を行う合同会社コントレイルの出資を受け、十勝の生産物を当社の技術でサポートする取り組みを推進しています。

代表取締役 馬渕 浩幸氏

代表取締役 馬渕 浩幸氏

人々の負担を減らし、未来の健康社会の実現へ

―― 御社の技術が普及した先のメリットについて教えてください。

当社は「社会を変える3Down」という目標を掲げています。私たちの技術を用いて創薬コストを抑えることにより、薬の価格を下げ、社会保障負担を軽減する。この3Downにより、生活が豊かになることを目指しています。

現在、一つの薬を開発するのには約10年かかり、そのコストは約1800億円と言われています。また、開発コストの約60%がタンパク質のバイオマーカーを特定する研究費用に充てられていると言われており、当社の技術により、この費用を大幅に削減し、薬の開発コストを下げることを目標とし、すでに大手製薬会社とプロジェクトとして取り組んでいます。

さらに、当社の技術を活用することで、感染症や胃がん、脳梗塞などの症状を自覚症状のない段階から検知し、体内での発症を判断することも可能です。症状が現れていない段階での予防や健康維持を促進し、生活習慣の改善を支援していきたいと考えています。

aiwellの目指す健康持続社会
―― 今後の長期的な展望を教えてください。

当社のタンパク質解析技術はバイオテックの分野においてはすでに完成されていると考えています。今後は、この技術を商業利用のサービスとして、さまざまな領域で幅広く提供していきます。そのためにも、多くのご要望に迅速に対応するために、研究拠点を拡充しています。

そして、病気やけがの予兆を発見して誰もが健康を維持できる、未来の健康社会の実現につなげていくことを目指します。


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