大気から水を生成、サステナウォーターが挑む次世代への水資源継承

大気から水を生成、サステナウォーターが挑む次世代への水資源継承

DeepTech Trend

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KEPPLE編集部

忍び寄る水資源問題をどのように解決することができるか。

国土交通省によると、地球の表面の3分の2は水である一方で、大半は海水であり、淡水は2.5%程度である。その中でも河川、湖沼などの人が利用しやすい水は0.01%のみだ。また、地域により偏りがある資源だという問題点が指摘されている※1

さらに、世界の水の使用量が、1950年から1995年にかけて約2.74倍になっており、同期間の人口の伸び率2.25%をはるかに上回ったことを解説している。2050年には、深刻な水不足に見舞われる河川流域の人口は39 億人(世界人口の40%以上)になる可能性も指摘している※2

そのうえ、このような現状から、世界ではすでに水紛争が起きている。水紛争の原因として、水資源配分の問題(湖や河川の上流地域での過剰取水)、水質汚濁の問題(上流地域での汚染物質排出など)、水の所有権の問題、 水資源開発と配分の問題が例として挙げられている※2

一方、水資源問題に対しての取り組みとしては、SDGsの目標6にて、水と衛生に関する単独のゴールに「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保すること」が設定されている※3

こうした背景から、企業も水資源の保全に向けた取り組みを実施している。サステナビリティ活動として水資源の有効利用を行う企業や、事業として海水の淡水化を行う企業も出てきた。

市場調査を行うグローバルインフォメーションは、世界の淡水化装置市場は、2022年に約155億3000万米ドルと評価され、予測期間2023-2030年には9.5%以上の健全な成長率で成長すると予測している※4

このような状況下で、空気から淡水を生成するAWG(Atmospheric Water Generator:大気水生成装置)を開発するサステナウォーター株式会社がシードラウンドにて、第三者割当増資による3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、アニマルスピリッツ。

今回の資金調達により、AWGの開発を加速させ、2025年中の商用化を目指す。

日本と世界の技術を掛け合わせ、大気から水を生成する

サステナウォーターは、大気から淡水を生成するAWGの開発に取り組む企業だ。2023年4月にケーブルや医療用チューブの製造販売と食品の生産を行う金子コード、新事業創出支援のコンセラクス、サステナウォーターの代表取締役を務める松田 勝一郎氏の共同出資で設立された。

同社は、インドのテクノロジーベンチャー企業であるウラブ・ラブス社と提携し、彼らの持つ吸湿材の技術と日本の卓越した製造技術を組み合わせ、先進国向けに小規模、省エネルギーで効率よく水を生成する装置の商用化を目指している。

現在は、試験装置を製作し、製造会社や素材メーカーの協力を得ながら改良を重ね、開発を進めている。

開発中のAWG試験装置

開発中のAWG試験装置


今回の資金調達に際して、代表取締役 松田 勝一郎氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

先進国も軽視できなくなってきた「水不足」

―― 御社が解決に取り組む「水問題」の状況について教えてください。

松田氏:日本は水資源に恵まれているため、水問題が認識されづらい国です。他の先進国においても同様の状況です。

しかし、実際は先進国でも水不足が加速することが予測されています。特に、災害対策、水道インフラ、環境保全の3つで問題が発生すると考えます。

まず、災害対策では、地震などの災害時に水道インフラが機能しなくなり、かつ道路が使えず、水を運搬できなくなるというリスクがあります。また、災害に備えたペットボトル水の備蓄も、保存期間が過ぎた水を数年おきに大量廃棄するということが起きています。

次に、水道インフラでは、約100年間にわたって張り巡らされた水道網のメンテナンスコストが大きな負担になっています。人口減少や高齢化から、水道インフラ再敷設の莫大なコストを確保することが困難になってきています。そのため、メンテナンス管理が不十分なまま、漏水や水道管の破裂事故が発生したり、水道管を通した長距離の運搬で水の品質が下がるという問題が起きています。

最後に、水資源への環境保全の対応が不足しています。現状の環境保全のための取り組みでは、脱炭素の意識が高まり、太陽光パネルなど再生エネルギーが普及しています。しかし、脱炭素が優先されるあまり、太陽光パネルを設置するために森林を切り崩したり成長が早い樹木に植え替えるなどの環境問題も発生しています。

また、世界の多くの工場では地下水を汲み上げて水を確保しています。しかし、地下水が蓄積されるまでに数十年から数百年を要するため、蓄積量よりも利用量が超えてしまっている状況です。

―― 御社が開発に取り組む技術の特徴について教えてください。

空気から淡水を生成する手法として、冷却結露方式と吸湿剤方式があります。当社では吸湿剤方式を採用し、日本の製造技術を用いて、省エネルギーで高効率な水の生成を目指しています。

現在、水生成のための乾燥剤技術を有したインドのテクノロジーベンチャー企業のウラブ・ラブス社と提携して装置の開発を行っています。同社は、世界中で安価に大量に水を作ることを目指して技術開発を行っており、主なターゲットは発展途上国です。そのため、同社の装置は工場一つ分程度の広大な面積を使用し、一日1万リットルの水を生成することを目指しています。

一方で、当社では2メートル四方程度の装置で、一日200リットルの水を省電力で製造することを目指しており、ターゲットを先ほどお話しした、今後顕在化してくる先進国の水問題に対応することを考えています。

―― サステナウォーターを創業されたきっかけは?

私自身、これまでにインターネットや通信、製造業、メディアやエンタメ業界などでキャリアを重ね、テクノロジーを基盤に3つの企業を起業し、数十のサービス・事業を立ち上げてきました。そして近年は、食糧や水不足が問題になる中、それらの解決のためにテクノロジーが介入しきれていないことに課題感を抱いていました。

養殖事業など食品の生産販売を行っている金子コードもまた、食料生産に関わる新規事業を模索していました。金子コードの代表とコンセラクスの代表が学友であり、私とコンセラクスの代表がソニー時代の同僚であったという縁から三者が集まり、起業のアイデアが生まれ創業に至りました。

代表取締役 松田 勝一郎氏

代表取締役 松田 勝一郎氏

小規模・省エネルギー装置で先進国の水問題を解決する

―― 御社の技術が普及した先の消費者のメリットについて教えてください。

今後は先進国でも、蛇口を捻っても水が出てこない、必要な水量を確保できない地域が増えていくと考えています。国内でも、過疎化が進む地域では水道インフラの保全や維持管理が困難となり、人が住めなくなり、より過疎化が進行する事態になりかねません。実際、廃れてしまったバブル期のリゾート別荘地エリアでは、こうした問題が発生しています。

当社の開発する水生成装置が普及すれば、これらの問題が解決されます。地域の施設の中に装置を設置し、その場で水が生成できれば、災害時に水を運搬する必要性がなくなり、交通インフラの状態に左右されなくなります。また、大規模な水道網を必要としないため、水道菅のメンテナンスコストも大幅に削減されます。

さらに、このように必要なものを自分たちで生み出せる環境の延長に、「新しい時代の自給自足」が形作られると考えています。昔は多くの人々が火、水、食を自給自足していました。しかし、現在は電気、水、食料を全て「流通」に依存しています。ある意味で消費者は電気代、水道代、食費のために労働している側面があります。しかし、資源の自給自足が実現すれば、「流通」への依存を減少させて生きることができ、生きる自由を手にすることにつながると思っています。

―― 国内外で競合となり得る技術はありますか?もしあれば、それに対する御社プロダクトの優位性はどのような点でしょうか?

冷却結露方式での水製造を行う企業は世界に200社ほど存在していると言われています。エアコンなどの空調機の技術とほぼ同様であるため、歴史も古く技術的にも確立されています。

一方で、吸着剤方式の水生成は新しい技術です。吸着方式で使用する素材は、従来だと食品の乾燥剤に入っているようなシリカゲルやゼロライトが主流でした。しかし、気化の温度が高く、水製造装置として利用するには、あまり現実的ではありませんでした。

昨今では、素材技術が進化し、吸湿剤方式を採用する企業が現れてきました。中でも、水生成システムを開発する米国のSOURCE Globalは有名で、設立数年でビル・ゲイツ氏や、ジェフ・ベゾス氏をはじめとする多くの投資家から数百億ドルの資金調達を実施しています。

SOURCE Globalでは2メートル四方程度の大きさで、太陽光パネルと一体化した装置を用いて、1日で3〜5リットルの水を生成しています。装置のサイズに対して生成量が少なく、エネルギー源は太陽光パネルのみとなっています。

これに対して、当社では同規模かつ、あらゆるエネルギーを用いることができるかたちで、一日200リットルの水の生成を目指しています。

水紛争を未然に防ぎ、資源の継承につなげる

―― 今後の長期的な展望についてお聞かせください。

すでに、さまざまな業界の方々と協議を重ねていますが、潜在的に水生成装置のニーズのある場所からの展開を狙っています。災害対策や、水が不足している地域の水道インフラとして、当社の装置を普及させていきたいと考えています。

そして、水資源の保全トレンドに沿う形で、世界にも広めていきます。最終的には当社装置が、さまざまな建物や家屋に設置されることになるとよいと思っています。

世界的にみると、まだ「水」の経済的価値が低く、先進国において不自由なく水を利用できている状況は、過去の遺産の上に成り立っていると言わざるを得ません。このままでは、遺産を食いつぶし、未来に水資源を継承できなくなります。

こうした状況が続けば、今後100年の間に水をはじめとする資源環境が崩壊してしまいます。20世紀は石油などのエネルギーを理由に戦争が勃発しましたが、21世紀は水確保のために戦争が起きる可能性があります。

しかし、必要な水が各地で作れるようになれば、争いごとを避けられると考えています。資源問題に立ち向かう企業の一員として、当社も多くの方々と連携しながら、新しい未来を築き上げていきたいと思います。

==========
参考:
※1 国土交通省 「世界の水資源
※2 国土交通省 「水資源問題の原因
※3 国土交通省 「水資源問題に対する取り組み
※4 グローバルインフォメーション「淡水化装置の世界市場規模調査&予測、ソース別、技術別(逆浸透、多段フラッシュ蒸留、多重効用蒸留、その他)、用途別、地域別分析、2023-2030年

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