物流2024年問題、スタートアップが産業の救世主になるか

物流2024年問題、スタートアップが産業の救世主になるか

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高 実那美


日本の物流は、いよいよ「2024年問題」に直面する。働き方改革関連法により、2024年4月から自動車運転業務の時間外労働時間が制限されることに伴い、大幅な運送力不足が懸念されている。パンデミック以降、ネットショッピングは消費者にとってこれまで以上に身近で重要な買い物手段となった。また、近年のD2Cブランドの著しい成長により通販需要が拡大するなかで、運送力不足を補うDXが業界にどれだけ浸透していくかが課題となっている。

2023年6月に定められた「物流革新に向けた政策パッケージ」では、2024年問題に直面している物流業界の環境整備に国をあげて取り組むための施策が示されている。「物流革新に向けた政策パッケージ」関連の2024年度予算は「物流の効率化」に約434億円(23年度当初予算比約20倍)が計上され、そのうち財政投融資を活用した物流施設の整備やDX・GX(グリーントランスフォーメーション)投資の支援に322億円(23年度当初予算比約16倍)が充てられている※1

具体的な施策では、大きく3点が挙げられている。1点目が商慣行の見直しで、納品期限や物流コスト込みの取引価格などの見直し、多重下請構造の是正に向けた措置の導入などが含まれている。2点目は物流の効率化で、設備投資の促進や物流GX、DXの推進、物流標準化の推進などが挙げられる。そして3点目が荷主・消費者の行動変容で、荷主の経営者層や消費者の意識改革を促す取り組みや措置の導入が例としてある。

本記事では、株式会社ケップルのアナリストが作成したレポート「【独自調査】物流2024年問題の解決に寄与する物流テック158社」の内容を基に、物流テック領域について触れる。当レポートで解説されている17のカテゴリーから「配車・車両管理」、「配送マッチング」のカテゴリーを抜粋している。

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・アナリストによる物流テックの詳細な解説
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Index

  • 日本の物流DX市場
  • 世界の物流DX市場
    • 配車・車両管理
    • 配送マッチング
  • おわりに

日本の物流DX市場

国内の次世代物流システム・サービス市場は、2030年には約1.2兆円と予測されている※2。ロボティクスやオートメーションの普及などにより、2021年からおよそ約8割増が見込まれている。

先述した2024年問題では、ドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることより、これまで1日1人で運送可能だったところ、1日2人での運送が必要になる場合がある※3。何も対策を講じなかった場合は、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足の可能性が示唆されている※4

また、人材不足の背景には労働時間制限以外にも、高齢化と低賃金という課題があげられる。労働者の50歳以上の割合は、全産業の約43%に対し、運輸業・郵便業では全体の約49%であり、平均年齢では全産業が約42歳であるが、大型トラックドライバーでは約47歳、中小型トラックドライバーでは約45歳となっている※5。賃金では、全産業の年間所得額は489万円であるのに対し、大型トラックドライバーは26万円、中小型トラックドライバーでは58万円も低い。

さらにトラックドライバーの年間労働時間は全産業と比較して約2割も長く、時給額の差は年間所得額の差以上のものと考えられる※6。こういった状況から、人材確保のために賃上げを行う運送業者も少なくないが、それに伴い会社の経営は圧迫されるというジレンマを抱えている。

また、2024年問題が差し迫り、大手物流企業が意欲的にDXを進める一方、中小物流事業者による導入は伸び悩んでいる。物流DXへの取り組み状況のアンケート調査では、中小企業と大企業を比較すると、「物流DXに現在取り組んでいる」と回答したのは、大企業が約47%、中小企業は約21%と倍以上のひらきがあった※7。DX導入に後れをとる理由として「イニシャルコスト・ランニングコストに課題」を感じている事業者が多い。

社内のリソース確保や資金の調達などの課題を抱えた中小企業が、自社でDXシステムを開発していくのは極めてハードルが高い。そういった中小企業が、スタートアップのサービスや製品を使用することで、必要な箇所だけ費用を抑えてDX推進できる点で、日本の物流DXにおけるスタートアップの役割は重要だ。

世界の物流DX市場

世界の物流オートメーション市場規模は、2022年に580億ドルを占め、2032年までに約1960億ドルに達すると予想されている※8

米国でも、近年ドライバー不足が深刻だ。米国トラック協会が2021年10月に公表した報告書によると、ドライバー不足は推計8万人と記録的な水準となっている。さらに今後は定年退職者が増えるため、不足人数は2030年までに倍増する可能性も示唆されている※9

人材確保のために、米国大手スーパーマーケットWalmartは自社のトラック運転手に対し、初年度から最高で11万ドルの給与を支払うと2021年に発表している。また、2023年には米国大手宅配事業者のUnited Parcel Serviceも、最高年収を17万ドルに引き上げると発表し話題となった。物価上昇の影響もあり、大企業では人材を確保するための大幅な賃上げがおこっている。

日本と米国の違いとして、米国のトラック運転手は基本的に個人事業主であり、物流企業と請負契約を結んでいるケースが多い。一方日本では、企業の社員としてドライバー業に就くケースがほとんどだ。米国では個人契約のため、より良い雇用条件を提示する物流会社があればドライバーたちが集まり、条件が悪ければ人材は確保できない。

また、米国では企業を超えたトラック運転手たちの労働組合が影響力を持っている。日本は企業別組合が一般的であり、トラック運転手を抱える会社の9割ほどは従業員が50名以下の小規模な会社で、そもそも労働組合を結成するまでの規模にも至らない会社が大半である。このような背景から、米国のような大規模なストライキや、それに対応した労働環境の改善や大幅な賃上げなどが行われていない。

配車・車両管理

配車・車両管理には、国内6社、海外4社を分類した。物流における配車は、配送先や荷重に合わせて車両やドライバーを割り当てることで、様々な配送先と車両から組み合わせを最適化する必要がある。

配車・車両管理カテゴリー
配車係は、配送先や荷量だけでなくドライバーのスキルなども考慮する必要があるため、難易度の高い業務といわれ熟練者に業務が偏る傾向にある。配車計画業務の課題についてのアンケート調査では、配車計画業務の属人化に課題を感じると回答した企業は全体の6割以上を占めており※10、DXによる効率化が期待される業務である。国内スタートアップでは、Logpose TechnologiesがAI 配車システム「LOG」を、ファンファーレは廃棄物の収集運搬に特化したAIを用いた配車管理SaaS「配車頭」を開発している。

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また、Hacobuは荷待ち・荷役作業時間の削減に向けて積み下ろし場の予約や、トラックの入場受付のプラットフォーム「MOVO Berth」を開発している。荷待ち時間とは、荷主や物流施設の都合によってドライバー側が待機している時間のことを指す。ドライバー側の努力では削減できない時間であり、荷待ちのある運行のなかで1運行あたりの荷待ち時間は平均1時間34分※11と決して短い時間ではないことから、ドライバーの長時間労働の要因として問題視されている。

また、先に触れた政策パッケージでも「荷待ち・荷役の削減」が挙げられており、大手企業を中心に業界・分野別の自主行動計画を作成し2023年度中に取り組むことが求められている。喫緊の課題であることから、同社のようなシステムの需要が高まると思われる。

海外ではフリート管理(社用車などの管理)の領域で複数のユニコーンが誕生している。米国のMotiveは、AIドライブレコーダーや給油用クレジットカードといったアイテムを含む物流ドライバーおよび車両の管理サービスを提供している。

配送マッチング

配送マッチングには国内7社、海外4社を分類した。荷主と配送業者・トラックドライバーを直接つなぐマッチングプラットフォームを運営する企業を紹介している。



ドライバーテクノロジーズは、ドライバーマッチングプラットフォーム「ドライバーダイレクト」や全国の非稼働トラックをネットワークし、適切な配送案件をAIでマッチングする「配車クラウド」を開発している。2023年11月に開催されたシードスタートアップに特化したピッチイベントLAUNCHPAD SEED 2023 Winterで優勝した。

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海外では、ブラジルのLoggi、インドのBlackbuck、香港のLalamoveなど、ユニコーンが複数誕生している。

Lalamoveは物流のUberといわれており、スマートフォンアプリ上で、荷主が荷物情報を入力し予約手続きを完了させると、AIにより登録ドライバーの中から最適な担当者がすぐに指定される仕組みだ。小物から建築資材のような大型な品物まで取り扱っており、柔軟な料金設定とスピーディーな配送が評価を得ている。同社は2020年9月末までに中国本土の約350の都市で運用され、48万人のドライバーを有し、月間720万人のアクティブユーザーを獲得している※12。また、個人間の配送だけでなく、同社の顧客にはeコマース大手のJD.com、国営の石油精製業者Sinopec、小売業ではセブンイレブンが含まれている。同社は日本への進出を発表している。

おわりに

2024年問題に直面している今、物流領域における効率化が喫緊の課題となっている。実際に国内外で物流DXを推進するためのサービスやプロダクトを提供しているスタートアップがその役割を担い、成長している。物流業界の人材不足や効率化の課題は今後も深刻であると想定され、これらのスタートアップによる貢献が大いに期待されるだろう。

その一方で、荷主や物流会社、消費者の行動やマインドセットに変革がなければ、物流DXが社会に幅広く浸透するための障害にもなり得る。

例えば、物流会社が費用や作業効率において、目先のスイッチングコストに囚われてこれまでの慣習を変えることに抵抗があったり、荷物の受け取り手である消費者がアナログな配達方法を好み続けるといったことが挙げられる。社会全体で物流2024年問題に取り組むには、スタートアップだけでなく、物流会社や消費者の行動様式の変革や、積極的に新しい技術・プロダクトを受け入れるマインドを持つことが求められる。

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※1 カーゴニュース 国交省24年度予算、「24年問題」対策に総額482億円
※2 富士経済グループ 次世代物流システム・サービス市場を調査
※3 国土交通省 物流の2024年問題について
※4 消費者庁 物流の「2024年問題」と「送料無料」表示について
※5 国土交通省 トラック運送業の現状について
※6 経済産業省・国土交通省・農林水産省 我が国の物流を取り巻く現状と取組状況
※7 HACOBU 『物流DX実態調査リポート〜「2024年問題」対策の実態と課題』発行のお知らせ。
※8 Precedence Research Logistics Automation Market
※9 東洋経済オンライン 8万人足りない!米国「トラック運転手不足」の末路
※10 LogisticsToday 配車計画「属人化」への危機感浮き彫りに
※11 国土交通省 トラック輸送状況の実態調査結果(概要版)
※12 CONTECH MAG 中国で話題沸騰中のオンデマンド配送サービス『LALAMOVE』とは?

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新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLEDBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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