物流革新から宇宙産業へ、RENATUSが目指す無人システムの確立

物流革新から宇宙産業へ、RENATUSが目指す無人システムの確立

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DeepTech Trend

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KEPPLE編集部


現在、物流業界は2024年問題に直面している。働き方改革に向けた法改正に伴い、4月以降ドライバーの労働時間が制限される。そのため、ドライバー一人当たりの走行距離が短くなり、長距離の運搬が困難になることが予想される。また、労働制限によるドライバーの収入減少、ドライバー離れ、ひいては業界全体の売上・利益の減少につながる恐れがある。

この問題は、荷物を管理する物流倉庫にも影響が出ると考えられる。たとえば、ドライバーが減少することで、今まで以上に効率のよい出荷が求められるようになるだろう。そのような背景もあり、物流業界ではAI活用、ロボットやドローンの導入、倉庫のIoT化などさまざまな変革が進められている。

矢野経済研究所によると、海運、宅配便、貨物運送、普通倉庫、航空貨物輸送などを含んだ物流17業種の国内市場規模は、2021年度で前年度比115.7%の23兆1860億円と推計されている。また、同社では、2024年には24兆4760億円まで到達する※と予想している。

こうした状況下で、自動倉庫システム「RENATUS」を運営するRENATUS ROBOTICS株式会社が安川電機を引受先とするSAFE型新株予約権の発行による資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の資金調達により、産業用ロボット製造技術に長けた安川電機と協業し、「RENATUS」を活用した倉庫の建設を加速させ、さらなる倉庫の無人化を目指す。

最先端のロボティクスと数理アルゴリズムで自動倉庫を実現

RENATUS ROBOTICSは、米国に本社を構え、日本に子会社を設立した東大発の物流ロボティクスベンチャー企業だ。最先端のロボティクス、数理アルゴリズム技術を活用した「ワンストップ梱包」を実現する自動倉庫「RENATUS」を開発・運営する。ワンストップ梱包とは、ピッキング・集約・箱詰めの全行程を、1人の作業者による一工程だけで完結することができる新方式だ。

RENATUSは、物流倉庫として荷物を運搬するシャトル、配車最適化アルゴリズム、昇降機、ラック(棚)から構成される。シャトルはラック内を縦横自在に移動可能であり、常に最適な走行をし、業界最速級となる4m/sを記録する。さらに、独自の数理アルゴリズムにより2000台のロボットが自動制御され、協調動作が可能。

RENATUSプロダクト構成

画像:RENATUS製品説明資料より掲載

同システムの導入により、作業員1人がピッキングから集約、梱包までをワンストップで1時間当たり500行(ピッキング数)に対応でき、最大で平均的なピッキング人件費が1/2まで削減されるという。

また、従来では倉庫に設置される荷合わせ工程の搬送コンベアや、荷物を集約するためのバッファ装置などが不要となる。そのため、複数のシステム間の連携不具合によりROIの低下が引き起こされる「スパゲッティコード問題」も避けられ、設備の導入コストも10〜30%軽減されるという試算だ。
RENATUS導入のメリット

画像:RENATUS製品説明資料より掲載

さらに、搬送コンベアやバッファ装置が占めていたスペースを保管場所にでき、従来の約2倍の面積効率を実現する。

2023年9月には、同社は、日本貿易振興機構(ジェトロ)が内閣府や経済産業省とともに展開する「グローバル・スタートアップ・アクセラレーションプログラム(GSAP)」のDeep Techコースである「Berkeley SkyDeck」に採択された。

また、2024年4月より、EC専業のロジスティクス事業を手がけるイー・ロジットのセンター内に1号倉庫を運用開始予定だ。

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 大澤 琢真氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

アルゴリズムとデバイスの一体化

―― 従来の倉庫システムの課題について教えてください。

大澤氏:コロナ禍やインターネット普及も相まってEC市場が拡大しています。それに伴って、現代では大量の送り先それぞれに、少量のさまざまな商品を合わせて配送する必要があります。

しかし、従来の倉庫では大量の商品を少数の送り先に届けるように設計されています。そのため、多数の配送先に対して、ダンボール1つに色々な商品を詰めるといったことに労力がかかります。1つのダンボールに3つの商品を詰めたい場合、3方向から商品を探して特定の位置まで持ってくる必要があります。

また、倉庫から商品を取り出し、運ぶ作業を人間が行っている場合が多く、一日で何往復もし、何時間もかけています。

Amazonなどでは、このような倉庫のモノのハンドリングに対して、ロボットを導入して自動化しようとしています。しかし、ロボットの走行が床で実装されており、倉庫の広さは縮小されませんでした。そのため、片道数百メートルをロボットが走行するという非効率さがありました。

そこで、倉庫は世界的に縦方向に荷物を20〜30メートル積むという構造に変わりつつあります。しかし、より複雑な構造であり、配送ロボット同士が衝突したり、渋滞してしまったりするという課題が残っています。

―― 御社の最新技術について教えてください。

当社の強みは、縦横、垂直方向にコンテナを搬送できる自動倉庫システムを開発しているという点です。倉庫棚を縦方向に積み上げつつ、昇降機を設置したことで上下に自在に搬送できるようになりました。また、縦横それぞれの方向にレールを設置したことでシャトルが柔軟に移動できます。これによって、シャトルが各レール・棚間を行き来でき、一度に全ての商品を集められるようになりました。

さらに、当社では独自の配車アルゴリズムを構築しており、シャトル同士の渋滞が発生しません。縦横、垂直といった三方向に対応した倉庫は通常のものより複雑です。そのため、弊社と同水準で渋滞が起きないシステムを構築している他企業はほとんどありません。

これらの物理的な設計、独自アルゴリズムによって、一回当たり30秒〜1分30秒程度と業界の中でも屈指のスピードで荷物をピッキングできます。

―― 御社の最新技術の開発背景と事業化できたポイントについて教えてください。

世界有数の技術の統合によって実現できました。当社の独自アルゴリズムは元々東京大学の研究室で配車アルゴリズムについて研究してきたメンバーを中心に開発されています。さらに、そのアルゴリズムを京都大学で理論物理を専攻してきたメンバーが応用・発展させています。

また、こうして構築されたアルゴリズムとデバイスの一体化に成功した点も大きいです。従来の自動倉庫では、デバイスとアルゴリズムを組み合わせる想定がされていません。一方、当社では全体統合できるサーバーシステムがあることで、各モジュールを動かしつつも、アルゴリズムを搭載できる仕様になりました。

RENATUS製品画像

完全自動化による無人倉庫で物流コストの大幅削減を目指す

―― 御社の技術が普及した先の社会や消費者のメリットについて教えてください。

当社は、完全自動化による無人倉庫を目標にしています。実現すれば、従来は働き手と広大な土地を必要としていた自動倉庫の建設場所の制約が少なくなります。たとえば、人口が少ない反面、土地が安い場所に巨大な倉庫を建設できるようになります。

また、将来的に自動運転トラックが普及し、かつ自動倉庫の償却コストが本来の耐用年数として扱われれば、物流費用が大幅に削減されるはずです。本来は、自動倉庫の耐用年数は30年から60年程度あるはずですが、現状では10年〜20年で償却される計算がされています。自動倉庫が本来の耐用年数で扱われれば償却コストも激減します。

当社では上記が実現されることで、将来的な物流コストは現在の5分の1以下になると予想しています。さらに、物流費用が減れば、よりEC需要が高まると予想しています。

―― 国内外で競合となり得る技術やサービスはありますか?もしあれば、それに対する御社技術の優位性について教えてください。

フランスのユニコーン企業であるEXOTEC(エグゾテック)が同じように自動倉庫システムを開発しており、現在の時価総額は約3000億円といわれています。同社は、ロボット自体が倉庫の棚を登り、棚を降りれば縦横に自由にロボットが走るという仕組みを採用しています。

しかし、ロボットは移動の際に床を走るため、ロボット同士の混雑が生まれており、一度に荷物を運搬できません。そのため、ロボットは商品ごとにベルトコンベアまで運び、その後にバッファ装置で複数の商品を集約して、再度ダンボールの前にいる従業員まで運搬しています。これでは、かなりの人手やコストがかかっていると言わざるを得ません。

一方、当社では少なくとも5000万円以上はかかるバッファ装置や、ベルトコンベアも必要とせず、小規模であっても倉庫の建設費用を1億円以上安くできます。また、当社倉庫では作業員1人がワンストップで梱包を行うため、人件費など運用コストも大幅に削減することができます。

物流倉庫システムから宇宙産業へ

―― 資金調達の背景や安川電機との協業の狙い、および調達資金の使途について教えてください。

安川電機の有するトップレベルのロボットアーム製造技術と、当社のソフトウェア技術を掛け合わせて、自動倉庫の前後工程における省人化ロボット開発を加速させていきます。

また、資金使途としては、1号倉庫のプロジェクトの運営費や、今後の2号・3号以降の倉庫の建設費・運営費に充てる予定です。

―― 今後の展望を教えてください。

来年度より、米国に無人倉庫センターを建設し、ほとんど無人で運営する予定です。物流業界の平均2倍となる粗利率40%を予想しており、約1年で投資回収できる見込みです。

再来年以降では、倉庫が実際に運営され、実績が積み上がることで米国投資家がリードの形で資金調達を行えるようになると考えています。その資金を使って倉庫の建設数をさらに増加させるつもりです。

―― 倉庫システムにとどまらず、長期的には事業を拡大していかれるとのことですが、どのような構想をお持ちなのでしょうか?

長期的な視点では、無人システムとして宇宙産業に事業を拡大していきたいです。デバイス自体は、マイナス気温や気圧ゼロ、大量の放射線といった宇宙空間の条件に対応したものを開発する必要があります。

しかし、デバイスを動かすソフトウェア自体は現在開発しているものをそのまま転用できるため、応用していく予定です。2030年ごろから、月面上での実験場開発が進むと見込んでおり、そこに当社も参画することを目標にしています。

実は、当初から宇宙産業に参入したいと考えており、現在の事業を選定した理由も将来的に宇宙進出の際にかかる資金や技術獲得を見込んでのものです。物流業界で数千億円規模のキャッシュフローと無人システム技術を獲得し、将来的に宇宙事業に参入する際に役立てるつもりです。

ChatGPTが登場し、AIの時代の到来だと騒がれていますが、身体を獲得できていない現状ではその影響力は限定的です。AIが身体を獲得してこそ、新たな生命体として本来のポテンシャルをより発揮できると考えています。しかし、これだけの可能性があるにも関わらず、人工身体に携わるプレーヤーは多くありません。当社は、こうしたAI活動を応用した宇宙産業を牽引していく存在となることを目指します。

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※ 矢野経済研究所 「物流17業種市場に関する調査を実施(2023年)


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